まーたる日記

米津さんLOVE❤️のブログ初心者です(^з^)-☆見た目問題当事者の視点から「見た目問題」について綴るとともに、まったり日常で思うことを書いていきます(*´꒳`*)よろしくお願いします(*´∀`)♪

まーたる、ショートストーリーを書いてみた㉙

まーたる、ショートストーリーを書いてみた第29弾ヽ(*´∀`)

 

お楽しみいただけたら幸いです(*´∀`*)

 

 

                  「オリオンのなみだ」

 

     2 タイミングは突然に

 

 

 放課後の教室が特に騒がしくなる金曜日。

 一週間の悲喜交々を発散させるかのようにこれから各々街へでも繰り出すのだろう、あちこちで楽しげな声が飛び交っている。

 入学して始めはよそよそしく、なんだかフワフワしていた教室の雰囲気も、お互いの夢に向かって勉強し研鑽を積む毎日を過ごす内に、いつの間にか居心地のいい場所になっていた。

 今日は職員会議があるとかで美術室もピアノレッスン室も開放されなかった。

 いつもなら放課後の自主活動に勤しむ生徒たちも、たまには息抜きをしないとと直帰組の友人たちと盛り上がっている。

 そんな中、賑やかだった教室が俄に騒ついたのに七音が入り口を振り返って見ると、廊下ににこにこ笑って手を振る花音と、隣でクールな表情を崩さず立っている凛音の姿があった。

 二人が教室に入ってくると一瞬の静けさのあと、ほうっという羨望の吐息が周りから漏れてくる。

 人目を引くに余りある美貌の二人がこうして並ぶとかなり壮観だ。

 ともに美少女といっても花音と凛音はタイプが違うから、並んでいても嫌味に感じず同性からの妬みややっかみはない。

 むしろ同性ではあるけれどこの二人にはどこかカップル感が漂っていて、男子のみならず女子からの人気もかなりのものだった。

 

「ねぇ、七音くん。

今日、これから何か用がある?」

 

「んー、特にないよ」

 

「良かった!

すごく素敵なカフェがあるの。

レッスンがない日なんて滅多にないし、そこね、コーヒーがすごくおいしいのよ。

これから一緒に行かない?」

 

 滅多にないレッスンのない放課後は花音もテンションが上がるのか、どこかウキウキしている花音の姿を七音は微笑ましく思って目を細めた。

 

「ついこの間、花音の忘れ物を届けに行ったとき知ったんだけど、本当に素敵なカフェなのよ」

 

 凛音の言葉にまた忘れ物したのかとチラッと花音を見ると、花音は素知らぬ顔をしてそっぽを向いている。

 ったく仕方ないやつ、と苦笑いしながら、

 

「凛音がそんなこと言うの珍しいな」

 

 からかうように言った七音に眉をひそめながら、

 

「七音もきっと気に入ると思うわ」

 

 凛音はフッと嬉しそうに微笑んだ。

 

 駅までの道は御形高校の制服で溢れていた。

 生徒たちは帰宅時間がまちまちだから、駅周辺が御形高校の制服で溢れることはまずない。

 その中を三人はいつものように花音を真ん中にして歩いていた。

 三人から放たれるそれぞれ独特のオーラに圧倒されるのか、少し遠巻きに三人を見ていたいのか、三人の周りには周囲との微妙な距離感がある。

 普段放課後は美術室とレッスン室に籠る三人だけに、こうして三人揃った姿を間近に見ることができるのはかなりレアなことなのだ。

 御形三重奏(トリオ)を前に、可愛い!素敵!マジ可愛すぎる!とか、興奮してうわずった声がそこかしこから聞こえてくるのも当然なのかもしれない。

 

「すごくコーヒーがおいしいのよ。

お店のレイアウトもとても素敵で、あの空間にすごく癒されるの。

だから七音くんにも見てもらいたくて!」

 

 いつもはおっとりしている花音は興奮すると少し早口になる。

 嬉しそうに話す花音につい緩みがちになる頬を、悟られないように七音はキュッと引き締めた。

 

「今日は蒸し暑いのね」

 

 長い髪の毛をふわっと遊ばせるように、さあっと吹いてきた湿り気を帯びた風に花音は唇を尖らせた。

 

「髪……結んだら?」

 

 花音のやわらかな髪の毛にそっと触れた凛音の瞳が優しく、そしてとても愛しげに見えたことに七音は訳もなく心が揺らいだ。

 見たこともない、愛しさに満ちた凛音の瞳。

 

ーーなんでオレ、こんなに動揺してる?

 

 性格も正反対の花音と凛音。

 ともすれば反発し合うことの方が多いタイプが違う二人だが、なぜかウマが合い、出会いから数ヶ月ですでに長い付き合いの間柄のように二人の間には信頼の絆が繋がれているように思えた。

 

ーー凛音に、嫉妬……?

 

 七音にとって花音は出会ったときからただの恋愛感情だけに止まらない、もっと深い特別な存在だ。

 思春期の男子らしく花音の愛らしい笑顔を一人占めしたい、自分だけを好きになってほしいという想いは七音の中にも当然ある。

 だからこそ男女問わず人気者の花音のことが男子たちの口に上ると、思わず耳をそば立たせてしまう七音なのだ。

 

ーーオレって実は嫉妬深いのかも……。

 

 それまで女の子に対してそれほどまでの想いを抱いてこなかった七音が初めて知る甘い痛み。

 今自分が感じているチリッとした焦げるような痛みは、間違いなく嫉妬からくる痛みだと思った。

 凛音が花音をみつめる瞳の優しさに嫉妬?

 七音はそう思った自分の心が一瞬わからなくなり、親友の凛音にでさえ嫉妬してしまうほど自分の心は花音でいっぱいになっているのかと驚いてしまった。

 

ーーでもたしかに、花音は誰にでもそう思わせる魅力があるんだよな……。

 

 花音に自分だけを特別に想ってもらうことは相当難しいぞと思いながら、七音は少し先を行く二人を慌てて追いかけた。

 

「また夏がくるのね」

 

 手早く髪の毛をくるくるっと頭上にまとめ上げて、花音はありがとうと凛音から鞄を受け取った。

 

「暑いのは苦手なの。

溶けちゃいそうになるもの」

 

 大げさに肩をすくめる花音に七音も凛音も面白そうに笑った。

 

「花音、暑いの苦手なんだ」

 

「でも夏休みは好き」

 

「その前にテストがあるわ」

 

「……暑い方がまだいいわ」

 

 がっくりと肩を落とす花音を見て、普段表情をあまり表に出さない凛音は珍しく声を上げて笑った。

 七音は思わず凛音を凝視し、周りにいた生徒たちもおそらく同じ思いだったのだろう、自分に視線が集中していることを訝しげに感じた凛音は何なの?という風にきょとんとしている。

 いつものクールビューティーは鳴りを潜め、代わりに現れた夏の陽射しのような凛音の笑顔から七音は目が離せなくなったのだった。

 

 そのカフェは花音が降りる駅から少し住宅街に入った場所にあった。

 白と茶をベースにしたシンプルな造りの建物は、周りの家々にしっくり馴染んで、入り口の前に藍色の看板がなければうっかり通り過ぎてしまう。

 ドアを開けるとカランという耳に心地良い鐘の音がして、一歩中に足を踏み入れるとそこはカフェというよりも小さな美術館のようだった。

 コーヒーを飲むテーブルの奥には絵画やオブジェがセンス良く飾られており、古い大きな本棚には日本だけでなく海外の美術・芸術雑誌や音楽関係の雑誌がぎっしり並べられ、客はそれを自由に読むことができた。

 店内にはピアノやフルートといった曲が耳に邪魔にならない適度な音量で流れており、今日はヴァイオリンのメロディーが静かに流れている。

 七音はあるオブジェを目にすると吸い寄せられるように近づき、信じられないというように驚愕の表情で目を見開いた。

 

「……ちょっと待って!

なんで、なんでこの作品がここに⁉︎」

 

 花に群がる蜜蜂をモチーフにした木彫りのオブジェは美術雑誌で見たことがあるものだった。

 作者は日本人彫刻家の沢渡青(さわたりせい)。

 世界的にも活躍し、七音が唯一心惹かれた芸術家だ。

 大胆でいて繊細な彼の作品は独特のオーラを放っているが、七音はもっと別の次元から沢渡青の作品に惹かれていた。

 技術的にはもちろん素晴らしいが、彼の作品の一つ一つは観る者に物語を感じさせるのだ。

 七音は沢渡青の作品を観るたびに、なぜこの人はこうも観る者の想像力を駆り立ててやまない作品を生み出すことができるのだろうと尊敬し、そして羨ましくも思う。

 これまでただなんとなくできて、そしてこれからの未来図も不透明な自分の生き方を粉々に砕いてしまいそうな、そんな力強いエネルギーに満ちた沢渡青の作品なのだ。

 

「七音。

とりあえず座らない?」

 

 口に手を当てたまま呆然とオブジェの前に立ち尽くしている七音に、凛音は静かに声をかけた。

 

「あ……。悪い」

 

 あまりの驚きにしばらく我を忘れていたことを恥ずかしく思いながら、七音は髪の毛をくしゃっとさせた。

 

「ふふっ。

髪の毛をくしゃっとするの、七音くんの癖ね」

 

 そう言って花音は七音の髪の毛をそっと直してやった。

 

「ごめん。座ろっか」

 

 花音が触れた髪の毛の先から激しくなった自分の鼓動が伝わってしまう気がして、七音は慌てて傍の椅子に座った。

 七音と凛音はコーヒー、花音はカフェ・オ・レを注文して一息ついた。

 

「気に入ったでしょ?」

 

「凛音がここは絶対に七音くんが気に入るはずだって言ったの。

気に入ってくれたみたいで良かった!」

 

 凛音が言うのに相槌を打ちながら、花音も嬉しそうに言った。

 

「あのさ、あのオブジェなんだけど……」

 

 オブジェを振り返ると奥のスペースのドアから三十代くらいだろうか、端正な顔立ちのギャルソンエプロンを着けたスタッフが現れた。

 

「いらっしゃい。

来てくれたんだね」

 

「こんにちは。

今日はこの間話した友達を連れてきました」

 

 微笑みを浮かべるスタッフに凛音がにこやかに答え七音を振り返る。

 

「ようこそ。

凛音ちゃんと花音から話は聞いているよ。

よろしく、七音くん」

 

 穏やかな声とともに差し出された右手を、七音は少し困惑ぎみに握った。

 

ーー花音を呼び捨て?

こいつ、何者……?

 

 まるで不審者を見るような七音の表情があからさまだったのか、握手した手を離した男は面白そうに笑った。

 

「はじめまして。

この店のオーナーやってます。

花音の叔父の高島理人です」

 

「花音の叔父さん⁉︎」

 

 七音は目を丸くして花音と理人を交互に見比べた。

 遺伝子なのか理人は花音同様かなりの美男子で、ふんわりとした穏やかな雰囲気がよく似ていた。

 

「りぃ叔父さんは半年前までドイツにいて芸術関係の仕事をしていたのよ」

 

 花音の話によると海外生活が長かった理人は装飾のデザインを手がけたり、美術雑誌の翻訳をしたり、そして音楽にも造詣が深いらしい。

 それならばこのセンスの良い空間を創り出すのも頷けると、七音は改めて店内を見回した。

 やがて運ばれてきたコーヒーは香ばしくて本当においしかった。

 サービスとチョコレートを載せた銀の小皿を持ってきてくれた理人に、七音は思いきって訊いてみた。

 

「あの、理人さん。

どうしてここに沢渡青の作品が飾られてあるんですか?」

 

 沢渡青という人は変わり者らしく、世界的に活躍している芸術家にもかかわらず謎の多い人物としても名が知られていた。

 プライヴェートなことは一切非公開にしているから、雑誌に掲載されている作品とほんの少しのコメント以外に彼を知ることはできないのだった。

 そんなミステリアスな芸術家の作品が小さなカフェに展示されていることは、七音でなくても芸術ファンにしてみれば青天の霹靂ともいう出来事なのだ。

 

「七音くんは沢渡青の作品が好き?」

 

 理人の問いに七音は少し困ったように、

 

「好きというか……。

正直、嫉妬してしまう存在です。

オレなんて沢渡青の足元にも及ばないけど、あの人の作品はどれも観る者に語りかけてくる作品ばかりで、どうしたら一つ一つの作品にこんなにも物語を表現できるんだろうって……」

 

「正直だね、七音くんは」

 

 理人は再び面白そうに笑い、見ると花音もにこやかに微笑んでいる。

 

「これは沢渡青がプレゼントしてくれたんだ。

僕がいろんな芸術家たちの作品をお客さんに楽しんでもらうカフェをオープンするって言ったらね。

青は高校の同級生で僕の親友なんだ」

 

「ええ⁉︎同級生⁉︎

理人さん、沢渡青が親友なんですか⁉︎」

 

 七音は驚いて理人をまじまじとみつめたが、すぐにそれも当然かと思い直した。

 海外生活も長く芸術や音楽に精通している理人は、沢渡青だけでなく多くの芸術家、音楽家たちとの交流も深いのだろう。

 だからこそこんなに居心地の良い素晴らしい空間を創りあげることができたのだろうし、そのおかげでここに来る客は豊かな気持ちで各々の時間を過ごすことができるのだ。

 それに加えて沢渡青の同級生で親友であるとは、それこそ嫉妬の炎が上がるくらい羨ましく思う七音なのだった。

 

「七音くんは将来のビジョンとか、もう見えているの?」

 

 理人の質問に七音は口ごもった。

 

「そっか、まだ見えてこないんだね」

 

 花音も凛音もそれぞれの未来図はとうに見えていて、それに向かって日々努力しているはずだ。

 それに比べて七音はまだ自分が進む道を模索している段階だ。

 未だはっきりと見えてこない未来図に焦りを感じながら、なんとなく毎日を過ごしている自分を七音は今さらながら恥ずかしく思った。

 

「七音くんは青によく似ているよ」

 

「えっ?」

 

 唐突な理人の言葉に七音は、そんな訳はないといった憮然とした表情を浮かべた。

 

「世界的芸術家の沢渡青に似てる訳ないだろって、今思っただろ?」

 

 図星を言い当てられてさらにぶすっとした表情の七音に理人はクスッと笑った。

 

「青も七音くんと同じように、将来のビジョンがまるで見えてこないんだって焦ってばかりいたよ」

 

「あの沢渡青が……?」

 

 七音は信じられなかった。

 作品のすべてに物語を感じ、観る者それぞれに自由な想像を抱かせるような、才能溢れた芸術家であるのに?

 

「タイミングだと思うんだ」

 

「タイミング?」

 

 そう、と理人は頷いた。

 

「人や物、音楽だったり、きっかけは人それぞれに違うけど、一歩前へ進む時も同じでそれぞれのタイミングがあるんだよ」

 

 理人の静かな声が七音の耳にじんわりと沁み込むように響いていく。

 

「大丈夫、焦らなくてもいいんだ。

今見えていなくても、それは君のタイミングで必ず訪れるよ」

 

 沢渡青がその証人さ、と理人は愉快そうに笑った。

 どうぞと言って理人が注いでくれたコーヒーの湯気が、カップから香ばしく立ちのぼる。

 ありがとうございますと小さく呟いてゆっくり口にしたコーヒーはとても熱くて、理人の言葉とともに七音の心の奥に長く凝り固まっていた鉛のような重い物が溶けていくように感じた。

 

ーーあぁ、きっと今だ。

 

 理人が言ったタイミングがあるとするならば、それはまさに今、この瞬間なのだと七音は確信する。

 

ーーオレは、沢渡青のような、観る者が自由に物語を想像できるような作品を創る芸術家になりたい。

 

 無謀な嫉妬を抱くほど憧れてやまない沢渡青の作品との出会い、コーヒーの香りとともに自分の心を解放してくれた理人との出会いがまさにそうだと思った。

 そして何よりも今日、自分をここに導いてくれた花音と凛音との出会いに感謝して、思わず泣きそうになるのを悟られないように、七音はまだ熱いコーヒーを一気に飲み干したのだった。

 

 

              第二話  完

 

 

f:id:ma-taru:20220212225631j:image

太陽の光にパワーをもらって❗️ヽ(*^ω^*)ノ✨

 

第二話も読んでくださりありがとうございます(*´∇`*)

 

これからの御形三重奏たちの成長、そして未来図を感じていただけたら嬉しいです(●´ω`●)✨💕

 

 

最後まで読んでくださりありがとうございます(*´꒳`*)