まーたる、ショートストーリーを書いてみた第23弾ヽ(*´∀`)
大好きなおりょー♪さんに心からの感謝と愛をこめて贈らせてください(●´ω`●)✨💕
『Happy rainbow birds 』
リコは制服に砂がかかるのもお構いなしに砂浜に大の字に寝転ぶと、ぷかぷかと青空に浮かぶ真っ白な雲たちをぼんやりと眺めていた。
そろそろ陽も翳る頃、つい先ほどまでいたサーファーたちの姿も波間からぽつぽつ覗くだけになっていた。
リコが住む海が美しいこの小さな島は全体がリゾート地のような島で、ひっきりなしに観光客が訪れてはサーフィンやダイビングなどマリンスポーツを堪能していた。
7月も半ば過ぎ、高校の終業式を終えたリコは家には戻らずにまっすぐにここへ来た。
この浜辺の一角は観光客が知らない、リコの秘密の場所だ。
観光客は皆広い砂浜の方で美しい碧の海をそれぞれに楽しんでいるが、リコは岩に隠れてぽつんと離れたこの砂浜の一角が昔から好きだった。
岩に守られるように広がる砂浜は白く、打ち寄せる波は優しい。
嬉しいときも嫌なことがあったときも、リコはいつもこの小さな砂浜で寝転んで空を見上げた。
抜けるような青空に浮かぶ雲は時に優しく弾むように、時に重く覆い被さるような灰色に変色してリコの目の前に迫ってくる。
すべてを見透かされているような空を前に、リコはこのときだけは素直になれるような気がした。
ーーうまくいかないな……。
リコの脳裏についさっきもらった成績表の数字がくるくると駆け巡る。
クラスメイトたちが思い描く将来を同じように持てずにいる自分。
キラキラとした瞳で未来を語る友達を見るにつけても、自分一人置いてきぼりされているようで、その焦りだけがリコをさして興味もない勉強に駆り立てていた。
それなのに思うように点数は伸びず、リコはどうしたらいいのか八方塞がりの気持ちで途方に暮れ、そのまま帰宅する気持ちにもなれずこの砂浜に寝転んでいるのだった。
ーーカナはトリマーになるために専門学校、アヤは看護師を目指して東京の学校、私は……。
リコの目の前をぽくっとした雲が風に乗りゆっくりと進んでゆく。
ーー私は何になりたいんだろう……。
この島を出る?
出たとして何をして、どう生きたらいい?
この夏は将来を決める大切な夏だと先生が言っていた。
わかってる。
忌々しい気持ちで聞いた、どこか間延びした担任の声が波の音に紛れて聞こえてくるようで、リコが耳を塞いでギュッと目を閉じたそのとき、
「わぁーーーーッ!!
きれーーーーーーーー!!」
突然耳に飛び込んできた弾けんばかりの歓喜の声に、リコは思わずがばりと跳ね起きた。
頭上の岩の上に現れた人影は太陽の光に包まれて、神々しく輝いて見えた。
ーー天使……?
リコは咄嗟に思ったが、そんなわけはないと軽く頭を振り、立ち上がって嬉々として手を空へ掲げているその人を見上げた。
「あらっ?
ごめんなさい、人がいるなんて思わなくて、つい大きな声をあげちゃったわ」
弾むような明るい声はそれまでどんより曇っていたリコの心を、なぜだか一瞬でこの空のような晴天に変えてしまった。
陽に灼けた長い髪を無造作に頭上に束ね、くるくるとよく動くぱっちりとした瞳にはキラキラとした好奇心の光が輝いてみえた。
「なんて素敵!
ここ、あなたの秘密の場所なの?」
そっちへ行ってもいいー?と女は言い、リコが返事を返す間もなくするするっと砂浜へ降りてきた。
重そうなバックパックを岩陰に置きスニーカーを脱ぎ捨てると、きゃーと嬉しそうに波打ち際へ駆けてゆく。
「うわぁ!気持ちいい!
なんて素敵なの!」
砂底がくっきりと見えるほど透明な海に、女が心からの感嘆の息を洩らしているのを、リコは不思議そうに眺めた。
見た感じ観光客だろうこの女はなんだって初対面の自分の前で、まるで長年の友達であるかのようにこんなに無邪気に振る舞っているのだろう。
無遠慮に思える女の振る舞いも、しかしなぜだかリコには憎めない。
寧ろ一緒に海に入って水を掛け合いたい気にさえなるほど、女から放たれる空気は溌剌としていた。
少し息を上がらせながら砂浜へ上がってきた女は、自分に注がれる視線など気にも留めないようにどしんと腰を下ろした。
「はじめまして。
私、ナル。
あなたは?」
ペットボトルのミネラルウォーターをごくごくと飲み干す女の喉元に、零れた水がゆっくりと伝い降りる。
「リコ………」
「リコ?
可愛い名前ね」
高校生?というナルの問いにリコはぶっきらぼうに頷いた。
「この島は本当に素敵ね!
世界でもこんなに美しい海はないわ」
「……世界一周でもしているの?」
「そうね、そういったところかしら」
面白そうに笑ってナルは言い、ふぅっと大きく息をついて大の字に寝転んだ。
リコは吸い寄せられるようにナルの横に同じように大の字になった。
目を閉じると優しい波の音に包まれて、リコは思わず泣きそうになった。
リコにとって特別なこの場所の波音は、リコの心の奥の琴線に触れてしまうのだ。
「泣いているの?」
ナルの言葉にギョッとしてリコは起き上がり、まじまじとナルをみつめた。
少し翳りだしたとはいえまだ強い太陽の光に照らされたナルは、心地良さそうに瞳を閉じている。
「どうしてわかるの?って顔してる?」
今度こそリコが呆気に取られているとナルもがばりと起き上がり、
「なんとなく、そう思ったのよ。
だってここの波、すごく優しいから……」
この波音を自分と同じように感じる人がいる。
そう思った途端、リコの瞳から涙が溢れてきた。
初対面の観光客の前で、私はどうしてこんなに泣いているんだろう。
リコは自分で自分の心がわからないまま涙を流し続け、やがてそれは嗚咽になった。
ナルはリコの真横に座り波音に耳を傾けているように見えたが、ただ黙ってリコの心に寄り添ってくれているようでもあった。
「私、自分の未来がわからないの」
ひとしきり泣いたあと、リコはぽつりぽつりと話し始めた。
友達はみんな自分の将来を決めてその道に向かって進んでいるというのに、自分は何になりたいのか、何をしたらいいのかさっぱりわからずにいる。
選択肢があれば将来何がしたいかがわかるかもしれないと、とりあえずやっている勉強にも思うような手応えを掴めず、それなら一体どうしたら自分の将来が見えてくるのだろうと一人悩む日々なのであった。
「友達はみんな将来の夢があってそれに向かって歩き始めているわ。
でも私は自分の道が全然見えなくて、一人取り残されているの。
私はどうしたらいいんだろう、どうしたら未来が見えてくるんだろう……」
俯いたリコの瞳に再び涙がじんわりと浮かび上がり、白い砂浜がぼんやりと滲んで見えた。
「わからないから面白いのよ、未来って」
ナルは言い、両手でリコの顔をゆっくりと上げた。
「わからないからこそいろんなことに挑戦できるし、いろんな場所へ行けるわ」
「目的地も決めないで出発するなんて、そんな怖いこと……」
「怖い?
こんなに自由で楽しいことなのに?」
ナルはちょっと驚いたように目をぱちぱちとさせたが、すぐに優しい笑みを浮かべて、
「目的地が決まっていないのなら行き先を自由に決めることができるし、途中で変えたっていい、寄り道することだってできるわ。
目的地が決まるのはそれぞれのタイミングよ。
早く決まる人もいればゆっくり決まってゆく人もいる。
リコの目的地はリコのペースで決まってゆくわ」
大丈夫よ、と言うナルの声はとても優しくて、まるで波のようだとリコは思った。
ザザン……ザザン……ザザァン……。
ナルの言葉が波の音に紛れて蘇り、リコの心にゆっくりと沁み込んでゆく。
「ナルはここに来る前はどこにいたの?
どんな仕事をしているの?」
見た感じ二十代半ばといった風貌のナルをじっとみつめてリコは言った。
ナルは徐にバックパックの中から一眼レフのカメラを取り出した。
ずいぶん使い込んで年季の入ったカメラだか、ナルの手の中でとても嬉しそうに収まっている。
「カメラマンなの?」
びっくりしたようなリコの高い声にふふふっと笑いながら、
「ここに来る前はイタリアにいたわ。
地中海にあるランペドゥーザ島、知ってる?」
「海がすごく透明で船が浮いているように見えるっていう?」
そうそう!とナルは嬉しそうに手を叩いた。
「その前はグレートバリアリーフのホワイトヘブンビーチに行ったわ。
パラオの海も、グアムの海も美しかった」
ナルは懐かしむように目を細めて呟いた。
今度はナルが泣いているような気がして、リコはそっとナルの顔を覗き見た。
「泣いてるの?」
リコの言葉に今度はナルが驚いた表情を浮かべたが、
「不思議ね、この島の海。
海の碧が美しくて、波がね、うんと優しいの」
「波が優しい?
世界中の海の方が綺麗でしょう?」
「心の奥の奥、芯のところまで届く波がたゆたう海にはなかなか出会えないものなのよ。
こうして波の音を聴いていたら、すごく心がまっさらになってゆくの。
ここに来てよかった」
沈みゆく太陽に照らされたナルの横顔は黄金色の光に溶けてゆくように輝いて、打ち寄せる波の音が二人を包み込むように優しく響いた。
明日島を出て次の目的地へ向かうというナルは、島にある小さな旅館に今夜は泊まるらしい。
「大きなリゾートホテルは苦手なのよね。
宿泊客が多いとゆっくりできないたちなのよー」
二人は海岸沿いを並んで旅館の方へ歩き始めた。
「次はどこへ行くの?」
「うーん、どこに行こうかなぁ。
メキシコのプラヤノルテに行こうかな、あ、ギリシャのザギントス島の海も綺麗なのよねぇ」
「決めてないの⁉︎」
「決めてなきゃいけないの?」
キョトンとしてナルは言い、いや、そうじゃないけどとリコは口籠もった。
「今決めても明日には気持ちが変わってるかもしれないわ。
その時々で、心が感じるままに進むのでいいんじゃないかしら。
そっちの方が断然楽しい!」
あははっと笑うナルにつられてリコも笑い出し、凝り固まっていた未来への不安がいつのまにかちっぽけなものに思えるようになっていた。
旅館が近づくとナルはつと立ち止まり、濃いピンク色のウェストポーチからごそごそと何かを取り出した。
「リコにあげるわ」
そう言ってリコの目の前に差し出されたのは真っ白な鳥の羽だった。
一点の曇りのない真っ白な鳥の羽は、青空に浮かぶ真っ白に輝くあの雲のようであった。
「幸せの鳥の羽よ」
「青い羽じゃないのね」
ナルと別れる寂しさを悟られないようにリコはちょっと憎まれ口を叩いた。
ナルはそんなリコの心などお見通しと言わんばかりに面白そうな笑顔を向けて、
「幸せの鳥は何も青い鳥だけじゃないのよ。
幸せの白い鳥も緑の鳥も、虹色の鳥だっているかもしれないわ。
世界は広いのよ、リコ。
遊ぶように、この世界を楽しみましょ!」
ハワイでみつけたという幸せの白い鳥の羽。
この広い世界にはまだまだ自分が知らないことがたくさんあって、知りたければこれからどこへだって旅に出てそれを知ることができる。
未来はそうやって自分の足で、心で創り上げてゆくものなんだ。
顔を上げるとナルの優しい視線とぶつかって、リコはうっすらと涙が滲む瞳をそらしながら、
「明日は何時の船で出るの?」
「何時にしようかなー」
「ええ⁉︎
それも決めてないの⁉︎」
信じらんないと呟くリコにナルはやっぱり面白そうな笑顔を向けて、
「あはは、嘘よ、明日は10時の船で出るわ」
「……お見送りに、行くから」
「え?何?」
「……だから、お見送り行くからっ!」
リコは投げつけるように言い、自宅のある旅館とは逆の方向へ走り出した。
途中で立ち止まり後ろを振り向くと、ナルがリコの方を向いて同じように立ち尽くしている。
「リコーーー!
どんなときも笑うのよーーー!
きっと目的地、みつかるわ!」
飛び跳ねるように大きく手を振りながらナルがとびきりの笑顔で叫ぶのへ、リコは胸を熱くさせながら、
「ナル!
明日バイバイしても、また会えるよね?
どこかでまた、会えるよね?」
「うん、また、どこかで!」
ナルの言葉に不思議な安心感を得て、リコはくるりと背中を向けて家へと走り出した。
10時出航の船にナルの姿は見当たらなかった。
それどころかナルが泊まったはずの旅館のおじいがのんびりとした口調で、そんな観光客はいなかったと言ったのには、まるで狐につままれたようにリコはぽかんとしてしまった。
当然のように11時出航の船にも姿はなく、10時前の船で島を出たのかもしれないと思った。
おじいの旅館も急に気が変わってリゾートホテルに変えたのかもしれない。
ーーその時々で、心が感じるままに進むナルだものね。
いつもの小さな砂浜でいつものように寝転んだリコは、ポケットから白い羽を取り出すと太陽の光に翳した。
羽はまるで天使の羽のように光り輝いている。
ーー今頃どこの空の下にいて、どんな海を目指してるのかな。
『世界は広いのよ、リコ。
遊ぶように、この世界を楽しみましょ!』
世界は広い。
その世界を遊ぶように楽しみながら生きることが、自分にもできるだろうか。
みつめていた白い羽が次第に虹色に染まってゆき、リコは思わず目を見開いた。
「虹……!」
見上げた空には虹が太陽を丸く囲むように七色の光を輝かせている。
リコは立ち上がり羽を空へと掲げてみせた。
「ナル。
私、幸せの虹色の鳥をきっと見つけ出すわ。
そうしたらナルに虹色の羽をあげる。
それまで、またね!」
ショートパンツの砂を叩いて力強く歩き出したリコの背中をゆっくりと押してくれるように、波が変わらぬ優しさで打ち寄せるのだった。
完
この物語は先月空へ帰っていかれた大好きなおりょー♪さんへ、まーたるの心からの感謝と限りない愛を込めて書かせていただきました。
闘病されていたおりょー♪さんはブログでたくさんのことを教えてくださり、また、たくさんの愛を与えてくださいました。
ブログでおりょー♪さんと出会ったのはほんの偶然のことだけれど、私にとってはかけがえのない大切な出会いで、このご縁はこれからも私の心の中で一生続いていきます。
たくさんの愛をいただくばかりで何のお返しもできなかった、せめて自分にできることで感謝を伝えたいという思いで書き上げました。
私が書く物語をいつも応援してくださり、夢をあきらめないでまーたるさんの世界を生み出してねー❗️と背中を押してくださったおりょー♪さん。
本当にありがとうございます。
空を見上げればいつもおりょー♪さんを想います✨💕
読んでくれているといいな(●´ω`●)✨💕
おりょー♪さんからいただいた愛に溢れたメッセージ、ずっと忘れないです。
おりょー♪さん、ありがとう(●´ω`●)✨💕
最後まで読んでくださりありがとうございます
(*´꒳`*)