まーたる、ショートストーリーを書いてみた第25弾ヽ(*´∀`)
お楽しみいただけたら幸いです(*´∀`*)💕
「オリオンのなみだ」
プロローグ1 ミンタカの憂鬱
高台にあるその公園は、夜になると海に漂う月の光が一筋の道のようにキラキラと見える、街のシンボル的な場所だった。
さらに夜空を見上げると、わりと賑やかな街並みであるにもかかわらず満天の星が降るように瞬いて見えるものだから、わりと遅い時間でも語り合う恋人たちの姿をそこここに見ることができた。
ゆっくり息を吐くと立ち上る白い影がゆらり、ゆらりと夜空へ溶けてゆく。
先ほどからポケットの中のスマホが何度も振動しているのを敢えて無視して、七音は足を放り出しながらベンチに座り星の瞬きに見入っていた。
帰りが遅い七音を心配した母親から、もしくは明日のことを考えて気もそぞろになっているだろう弟を励まそうとしているお節介な姉からの電話かもしれない。
時計を見るとまだ20時前、そんなに心配することもないだろと、うざ、と小さく呟いてみる。
ダッフルコートのポケットに突っ込むと、指先にガサッとした紙が触れた。
取り出したはがきサイズの受験票には、10人いたら10人ともが口を揃えて言うであろう『爽やかなイケメン七音』のぎこちない微笑みが貼りついていて、七音はそれが自分でない誰かを見ているような気分で眺めた。
ーー明日か……。
ふうっと息をついて七音は受験票をポケットにしまう。
明日は高校の合格発表の日。
ーーみんな今頃どうしてるんだろうな。
一昨日卒業式をともに迎えたクラスメイトたちの顔が次々と浮かんでは消えてゆく。
『受験番号 315 江藤七音』
結果は運がなくて ''サイゴ''なのか、希望に満ちた''サイコー''な世界が待っているのか。
柄にもなく験を担いでみた自分が可笑しくて、七音はネックウォーマーに鼻を埋めながら少し笑った。
地元にある全国にいくつもない美術科のある高校、御形学院高等学校。
音楽科と美術科しかない、世界に通用する音楽家、芸術家を何人も輩出している、全国から多くの中学生が受験するハイレベルな高校だ。
七音がこの学校の受験を決めたのは世界に通用するような芸術家になるためでも、将来芸術に関わる仕事に就きたいからでもなんでもない。
ーーただ、なんとなく。
どうしても合格したいと願う他の生徒にしてみれば七音の選択の理由は到底考えられないことだし、ふざけるなと罵られてもおかしくない。
夏休み前の三者面談でもなかなか決まらない進路に、しかし母も担任もさして慌てるそぶりは見せなかった。
「七音君の成績なら特に何の心配はないと思いますよ。
部活動や生徒会の活動もしっかりしていますしね」
個人票をめくりながらにこやかに言う担任に、あぁ、良かったわぁと間の抜けたような返事をしていた母の横顔をチラリと見ながら、七音は何とも言えない複雑な気持ちになった。
進路については自分の好きな道へ行けというスタンスの両親だから相談してもこなかったし、たとえ進学しないという道を選択をしたとしてもおそらく反対はしないのだろうと思った。
しかし進学しない道の先に何があるかというと何にもなく、それならば自分ができそうな分野の道を選ぶしかない。
英語や社会は好きだけど進んでやりたいかと言えばそうでもないし、数学や理科はそんなに好きじゃない。
だとすると残るのは……?
七音はもう一度受験票を取り出すと、街灯の灯りが微かに微笑みを浮かべる自分の写真を明るく照らした。
『御形学院高等学校美術科・造形コース』
決定した進路先を告げたとき、担任は少しだけ渋るような表情を見せた。
御形学院高等学校は、未来の芸術家を目指す選りすぐりの若き精鋭たちが集うハイスペックな高校なのだ。
成績優秀、品行方正、美術関係でいくつか賞を獲ってはいる七音でも、そう簡単に合格できる学校ではない。
しかし一旦決めたことは必ずやり遂げるのを信条としている七音は、やんわりと進路変更を勧めてくる担任を前に考えを変えることはなかった。
むしろ無理だと言わんばかりの担任に反抗心のような気持ちがむくむくと湧き上がり、そこからの七音の受験勉強は怒涛の勢いであった。
七音が御形学院高等学校を受験するのだと知れ渡ると、クラスメイトは口々に七音の挑戦にエールを送った。
頑張れよと肩を組んできたり、さすが江藤君!と弾んだ声をかけてくるクラスメイトたちに戯けたような笑顔を振りまきながら、七音の心はどんどん重く鉛のようになってゆく。
それぞれの未来へ向かって、自分よりも先に明確な道を見つけ出していたクラスメイト。
ーーオレの中には何にもないんだ、夢も、未来図も……。
キラキラと希望に満ちた彼らを前に、消去法で選んだ自分の道があまりにも色褪せて見えて、受験が近づくに連れて七音のため息は次第に増えていったのだった。
時計を見ると20時半になろうとしていた。
ーーさすがに帰らないとヤバいな。
いくら放任主義の両親でも、明日合格発表を控えている息子の帰りが遅いことに幾ばくかの不安を感じているかもしれない。
七音はゆっくりと立ち上がり天を仰いだ。
ーーオリオン……。
見上げた夜空に浮かぶオリオン座の雄大な姿に、七音は訳もなく胸が震えた。
夜空に流れる冷たい空気がオリオンの光をさらに煌めかせ、その力強い輝きが七音の不安な心を鎮め前を向いて歩く力を与えてくれているように思えた。
ーーもし合格していたら……。
七音は拳にグッと力を込める。
ーーもし合格していたら、オレはきっと何かを見つけられる。
たとえ消去法で選んだ道だとしてもその門が目の前で開いたのならば、自分はそこで未来図を描くことができるかもしれない。
七音の鼓動がドクン!と高鳴った。
ならばすっぱりと気持ちを切り替えよう。
そして必ず自分にしか描けない未来図を描いてみせる。
誰よりも力強く、鮮やかに!
七音の決意を受け止めでもしたかのようにオリオンの三つ星が紺碧の夜空でゆっくりと瞬いて、七音は軽やかに石段を駆け降りていった。
三つ星が出会うまで、あと20日。
プロローグ1 完
読んでくださりありがとうございます(*´∀`*)
作品が新しく生まれ変わり始めた第一歩。
書きながら楽しみでならないまーたるです
(●´ω`●)🖋✨
次回上がったらまた読んでいただけたら嬉しいです(*´꒳`*)
トルネードのような雲に溢れてくる情熱を乗せて❗️ヽ(*^ω^*)ノ✨💕
最後まで読んでくださりありがとうございます(*´꒳`*)